インタビュー009|井原 洋一郎さん (翻訳事務所 プロジェクト☆エルス代表)

インタビュー009|井原 洋一郎さん(翻訳事務所 プロジェクト☆エルス代表)

「僕って、気にし過ぎる性格なんですよ。欲しいですね。鈍感力。」
何でも気になる、気にし過ぎてしまう。自身の性格をそう語る井原さん。

その細部にゆきわたる「気」が、お客様へのサプライズとなり、大きな信頼をえている。

「意味の通じる翻訳」ではなく、読み手に自然と受け入れられる「想いが伝わる翻訳」。
「仕事」の枠を超え、気持ちでお客様に接している井原さんの翻訳魂は、原稿に書かれることのない想いを引き出し、表現する。

「伝わる」ことの おもしろさ

両親の薦めによって、小学5年生から通った英語教室。

ここから、井原さんの英語道が始まる。
「英語塾に行くなんて、ガリ勉と言われそうで・・・。」
はじめは、イヤイヤだった英語の勉強。

だけど、勉強すれば当然成績は上がる。井原さんの中で、自然と英語が「得意教科」になっていった中学生。

そして、ただの「得意教科」だった英語が「興味」に変化したのは、高校生の時に通った英会話教室での出来事だった。

「大学受験のために勉強した英語を、『せっかく覚えたんだから、先生に言ってみよう!』、そんな気持ちで英会話教室で使ってみたら、通じたんですよね。
『あぁ、ちゃんと分かってくれた』って、自分の言いたかったことが伝わったことが何よりも嬉しくて・・・。それから英語を本格的に勉強したいと思うようになりましたね。」

「自分の言いたいことが伝わること」
高校生の時に感じたこの喜びこそが、井原さんの翻訳業のルーツとなる。

翻訳事務所 PROJECT ELSE(プロジェクト☆エルス)

本格的な英語を勉強するため、大学を2年で中退。アメリカへ留学。

帰国後、アメリカの大学で培った語学力を生かし就職。2001年11月に独立。沼津市で翻訳事務所PROJECT ELSE(プロジェクト☆エルス)を開業する。

「つのだ☆ひろ。みたいもんですよ。」
そう冗談交じりに笑ったが、この屋号には翻訳業という仕事に対する井原さんの強い信念が込められている。

E:End user-oriented(エンドユーザ重視の)
L:Language(言語)
S:Service(サービス)
E:Expertise(専門知識・技術、ノウハウ)

「僕に翻訳を依頼してくださったお客さんにはもちろん満足してもらいたいけれど、更にその文章を実際に使うエンドユーザ、つまりお客さんのお客さんにも満足してもらう。というのが僕の仕事です。」

井原さんの仕事 「実務・技術翻訳」

  • 企業の製品、サービスの紹介やホームページ、パンフレット、プレゼン資料など販売促進用資料の英訳・和訳
  • 製品の取扱説明書やサービスマニュアルの英訳・和訳
  • 開発に必要な製品やサービスの要求仕様書の英訳・和訳
  • 海外とのメールやビジネスレターの英訳・和訳

これが、井原さんの具体的な業務の内容である。
映画や小説の翻訳のように、読み手独自の解釈が許されるあいまいな表現は致命的となる分野である。

「たとえお客さんに満足してもらえても、翻訳したドキュメントが世の中に出ていったとき、『いや実はここが分かりにくい』、『なんか使いづらい』、『このマニュアルを読んでも意味が分からない。』なんて言われたら、僕の仕事は全く意味がありません。」

「だから、『相手によく分かってもらえて、とても役にたったよ』とか、『井原さんのおかげでビジネスがひとつ成立したよ。』なんてお客さんに言ってもらえると、ホントもう最高に嬉しいですよね。」

エンドユーザを意識した井原さんの翻訳文章は、定評があり、リピーターが多い。

それは単に「語学力」だけが評価されているわけでなく、翻訳に取り組む井原さんの姿勢から、信頼関係が生まれているからである。

以言伝心 それがモットー

「コトバを丁寧に駆使して、自らの意思を伝えきる。」

「日本人の中には、『80%を伝えて、あとの20%は相手に察してもらう、または言わなくてもわかるだろう。』という意識があると思いますが、この気遣いができるのは日本人だけ。外国人には通用しません。」

例えば、日本企業がインドのソフト会社に開発を委託する際、「開発・設計仕様書」を英語で作成する。

この時、日本人同士であれば
「仕様書には書いていないけれど、一般的にはこうだろう・・・。」
と、書かれていないことにも気をきかせ、機能を追加したり、作り込んだりする。

ところが、インド人は仕様書通りのものを作成する。後になって、「本当はこういう風にして欲しかった」、「ここにはこんな機能が含まれている」などと言うと、「そんなこと書いてない。追加料金をもらわなければできないよ。」と言われてしまう。

「よく日本の方は、『こんなことを言ったら悪いかな』、『こんなお願いしたらどう思われるかな』という遠慮がありますが、僕はお客さんに対して『全部言って下さい!』とお願いしています。」

伝えたつもりではいけない。
お客さんのビジネスの成功とスムーズな国際的コミュニケーションを実現するため、「自らの意志を伝えきる」サポートを第一に考えている。

原稿には書かれていない お客さんの想い

なぜその文章を出すのか、お客さんと話し、その経緯を聞く

「例えば、ビジネスレターの英訳を依頼された場合、『なぜこのレターを相手に出そうとしているのか』、お客さんに差し支えのない範囲まで聞き、お客さんの想いを理解し、お客さんの立場にたって文章を書いています。」

相手に文句を言おうとしているのか、問題があって謝ろうとしているのか、レターを出すまでの経緯を聞く。
「これは相手に必ず伝えたい!」・「強くお願いしたいけど、相手を怒らせないように・・・。」
といった、原稿には書かれていないお客さんの想いを発見することから、井原さんの「伝えきる翻訳」が始まる。s

「お客さんのファンになる」

「僕が着てるこのTシャツ。お客さんが扱っているTシャツなんですよ。」

嬉しそうな笑顔でTシャツを自慢する井原さん。

「お客さんが扱っている商品や技術はいいものだ。日本で、いや世界でも一番素晴らしいものだから、『機会があれば他の人にも薦めてみよう!』と、僕自身がお客さんのファンになって愛着を持つことで、より文章に想いを込められるのではないか、そう考えています。」

「僕自身が商品や技術を理解し、その凄さや便利さを実感して、感動できる気持ちを持てば持つほど、よりいい文章が書けるような気がしています。」

「まぁ、精神論なんですけど・・・。」と、笑顔で付け加えた。

渡された原稿を機械的に英語にしたり、日本語にすることは、「語学力」と「経験」さえあれば、きっと誰でもできる。
が、原稿に見えない部分を知ろうとする井原さんの「ファン心」によって、原稿には温かみが加わり、仕事を依頼したお客さんのみならず、読み手の理解と興味を深め、喜ばれている。

翻訳業のおもしろみ

新しい知識を得ることができる。それが楽しい。

新しい製品や技術を知ることができる楽しみ。
翻訳するにあたって新しい表現を知ることができる楽しみ。
これが、井原さんにとって翻訳業のおもしろみだと言う。

「短納期のときもそうですが、全てお客さんに質問するわけにいかないので、あらゆるものを活用して自分で調べます。」

翻訳する原稿に、分からないことや自信のないことがあった場合は、インターネット・書籍・辞書などを使い、納期が許す限り調べつくす。

「以前、ISO9001に関する社内規定を日本語に翻訳したんですよ。ISO9001については知っているんですけど、一度訳してみたら、なぜかしっくりいかなくて・・・。だから、図書館に行ってみたんです。」

図書館でISO9001に関する本に目を通したところ、ISO9001ならではの言い回しや表現があることに気がついたのだと言う。

たとえ「知っている」というこれまでの知識があろうとも、その情報だけに頼らず、常に新しく、更に分かりやすい表現方法を取り入れ、勉強し続けている。

「数行の文章を翻訳する方が難しいんですよ。だって、その少ない数行の中から、情報を得なきゃならないでしょ。」

なぜこういう文章にしたのか。たった一文であろうとも時間と労力を惜しむことはない。

なぜ ひとつの翻訳に ここまでこだわれるのか

「もともとは、英語の先生になりたくて勉強していたんです。」

実務・技術翻訳者は、昔研究者や技術者だった人が多い中、井原さんは、イーオンをはじめ英会話・英語教室の講師という職歴を持っている。

「英語だけに限らず、語学には正解がなく、正直どこまでやっても終わりのない難しいものです。」

「生徒さんは、今日のレッスン内容は分かったとしても、まだまだ知らない単語や表現がたくさんあるわけです。少しずつでもあきらかに上達しているけれど、実感ができずあきらめてしまう人が多い。これが語学学習の難しいところ。
でも、一人一人生徒さんにとってベストなカリキュラムとレッスン計画をたて、授業に取り組むことが楽しかったですね。」

幼児から社会人まで、様々な年代・レベルに合わせて「教える」ことを経験した井原さん。
活躍の場を翻訳に変えど、「何を求められているのか」・「何が不足しているのか」、相手を知りたい、相手の想いを理解し、解決してあげたいという気持ちが自然と生まれる。

この相手を想う気持ちの強さが、ひとつひとつの翻訳を丁寧に、ここまでこだわることができる、井原さんの強みなのだと感じる。

語学には正解がない だから100%の満足感はない

けれど、お客さんの「喜び」が何よりも励みになる。

「自分が書いたものをお客さんにお渡しした時に、『あぁ、やっぱり違うね。自分じゃこうは表現できないよ。』って言ってもらえることが喜びですね。」

「そのためにも、時間が許す限り僕にできるあらゆる工夫と調査をすることで、違いや価値を感じていただけたらいいな、と思っています。」

井原さんにお願いすれば、大丈夫。

一度仕事を依頼したお客さんが、また原稿を持って井原さんのもとへ相談に来る。

これは、意味が伝わるだけの翻訳でなく、何を伝えたいのか、伝えたいことが表現された心の通った文章だからである。

井原さんは、今でも
「自分の英語が通じること」に対する感動は薄れないという。

最後に・・・。今、ワクワク・ドキドキしていますか?

「今までいろいろな分野の仕事をやらせてもらってるんですけど、僕自身、まだ本当の自分の得意技って、ないような気がするんですよ。『この分野』・『この話』なら、僕に任せなさい!ってものが、まだ見つかっていないというか、巡り合っていないような気がしています。」

「『残りの人生。これにかけよう!』と思える何かに出会うことを楽しみにしています。」

「でも、一番の楽しみは・・・。」満面な笑みを浮かべてこう続ける。

「僕には小学校6年生になるひとり息子がいるんですけど、月並みですがその息子の成長を見ているのが一番ワクワクするし、楽しいですね。」

「息子には『知識欲』があるので、今は僕が週1回英語を教えています。今年、中学生になる息子がどうなっていくのかな、何を目指しているのかなって、それが楽しみですね。」

取材日:2009年2月 (記事:中村)

井原洋一郎さんのプロフィール

1968年(昭和43年)11月生まれ。現在40歳。 妻と子供1人、両親の5人暮らし。
高校卒業後、明治学院大学へ入学。大学3年生の春休みに経験したカナダへのホームステイをきっかけに、大学を辞め南イリノイ大学教養学部へ編入。2年間アメリカで生活し、大学を卒業後帰国。
英会話教室のイーオン、株式会社ウェストゲイトにて、英会話の講師として活躍の後、テックインフォメーションシステムズ株式会社(旧テック技研株式会社)へ転職。
そこで数々の「和訳・英訳」、「通訳」、「マニュアル作成」を経験し、2001年11月、沼津市にて翻訳事務所を開業。

インタビューコメント 〜井原さんとお会いして〜 eひと編集長 中村

以前井原さんに、ホームページの翻訳をお仕事でお願いさせていただいたことがあります。
翻訳のデータとしていただいた資料は、アンダーラインやマーカーが使用され、本当に見やすく、社内でも「丁寧な翻訳をしてくださる、いい方に出会えた」と喜んでおりました。
喜びは、翻訳のクオリティだけに留まらず、

  • 私たちが理解しにくい部分に、「なぜこの英訳になったのか」コメントをつけてくださいました
  • 私が日本語版サイト用に、「翻訳ソフト」を使用して翻訳した文章まで確認していただき、「この場合は、こちらの文章の方が分かりやすいと思いますよ。」とアドバイスをくださいました

私が身近に感じていた「翻訳」は、日本語を外国語に書き直すというもの。WEBの翻訳サイトで、ちょちょいとボタンを押し、表示された英語を使ってきました。

ですが、井原さんの「翻訳」は、日本語を外国語に置き換えて気持ちを伝えるというものでした。

「伝わる」ではなく、「伝えきる」ことにこだわる井原さんのテクニックに、うっとりしました。

インタビューの帰り際、「これ、スタッフのみなさんで食べてください。」とお菓子をいただきました。お忙しい中、インタビューのお時間を作っていただいた上に、お土産までもいただいてしまった私たち。井原さんの心遣いや相手を想う気持ちが、とてもあたたかく、幸せな気持ちになりました。

お忙しいところ、3時間もの貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

インタビューコメント 〜井原さんとお会いして〜 eひとスタッフ 中野

多くのお客さまが井原さんを選ぶ理由。
翻訳の技術?知識?それだけではありません。
意志の疎通が大事な翻訳の仕事だからこそ、お客さまの意図を敏感に察して柔軟な発想で文章を綴る。

・まずはお客様のファンになってから仕事をする。
・コトバを丁寧に駆使して、自らの意思を伝えきる。

そんな井原さんの言葉は、関わった人たちの心を掴む。
通常は30分程度のインタビュー時間なのが、すっかり井原さんの魅力に引き込まれ、気がつけば3時間も経過していました。

英語の上達方法などもこっそり教えていただきました。
ありがとうございました。

翻訳事務所 PROJECT ELSE プロジェクト☆エルス  事務所情報

所在地 〒410-0035  静岡県沼津市山王台9-3
電話番号・FAX番号 055-952-7120
事業内容 各種文書の翻訳(和訳および英訳)
1. ビジネスレターや電子メール
2. 仕様書や規格などの技術文書
3. 取扱説明書、サービスマニュアル
4. ホームページ、カタログ、パンフレット
5. プレゼンテーション資料
WEBサイト http://www.project-else.com/
※2010年7月 合同会社ELSEコミュニケーションズへ社名変更
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http://e-hito.org/m/009/v9-1.php

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