インタビュー007|橋本伸さん(シンズダイニングオーナーシェフ)

インタビュー007|橋本伸さん(シンズダイニングオーナーシェフ)

会計を済ませ、席を立ち、店の扉を出た瞬間。「今度はあの人と一緒に来よう」そうじんわりと、大切な誰かを連れてまた来たくなる、和風居酒屋シンズダイニング。
人が人を呼ぶ。まさにこの言葉の通り、一度訪れた人の口コミによって男女問わず、幅広い年齢層に親しまれている。

そこはかとなく漂う「心地よさ」は、この店のオーナーシェフ橋本さんに染みついた「もてなしの心」が作り出す、雑も余分もないちょうど良さにある。

なぜ料理人に? これがはじまり それが全て

「ミスター味っ子って知ってます???」

身を乗り出し、そう答えると豪快に笑う橋本さん。料理人を目指すきっかけをこう語る。

「高校入学までは、大学進学を考えてましたね。それが、高校に入ってすぐ『ミスター味っ子』をTVで見ていて、『あぁ。料理って楽しそうだなぁ。』と思い、『料理人になろう!』と思ったわけです。」

「またまたぁ〜。本当ですか?」思わずそうツッコミたくなるのは、私だけではないはず。

「えっ、だってだって、料理を食べた人がすっごく感激してるでしょ。あれを見て『はぁ〜。そういうもんなのかぁ。』っと思ったから。食べた人に、あんなに喜んでもらえるなんて、料理人って楽しそうだな。と思った。」

たしかに「ミスター味っ子」は、「うー・まー・いー・ぞぉぉぉぉっ!!」という声と共に、口の中から放たれる四方八方に広がる光線。さらに、津波の中を泳いだり、巨大化したり、料理を食べた人のド派手なリアクションが話題となったアニメである。

アニメの世界で表現された旨い料理を食べた人の感動。そこから橋本さんが感じたワクワク感。
これがはじまりであり、これまでもこれからも「料理人 橋本伸」を突き動かす原動力の全てであるように思われる。

楽しむ空間

THE SPACE WHICH ENJOYS A MEAL & CONVERSATION
〜食と会話を楽しむ空間〜

「基本は居酒屋なんです。できる限り幅広い年齢の方に、リーズナブルな価格でゆっくりしてもらえる場所。そういう場所が欲しかった。」
自身の頭に詰められたこのコンセプトの意図するところを絞り出すように、間を置き、そう言葉にする。

「だけど居酒屋と言っても大型チェーン店のようなロボット的な動きじゃなく、人と人との会話がしやすい、より親近感があるような感覚を求めてます。」

その言葉の通り、店内は見た目や効率を重視した店側の自己満足ではなく、長くその空間に座り続けるお客さんの居心地を追求した気配りがなされている。

「よく地下のお店なんかに行くと、窓が一つもなくて圧迫感を感じません?僕はそれがイヤなんだよね。」

店に入ってすぐ、目の前に見えるテーブル席には壁の2/3以上を占める大きな窓がある。ほどよい照明とカウンター後ろのバックライトと共に、たった一つのその窓がかなりの開放感を感じさせている。
その他にも、

  • 掘りごたつにしたい
  • カウンターの後ろにライトを入れてディスプレイ感覚にしたい
  • 和風なんだけど、コテコテじゃない

など、自らのイメージを職人に伝え内装は仕上げられた。どこへ座っても「ゆとり」を感じられる空間がここにはある。

個室

空間が意識された店内は、席を完全に遮る壁がない。

「よく『接待で使用したいんだけど。。。』と言ってくれるお客さんがいるんだけどね、なにせ個室がないから。」

「だって、接待で利用してもらったお客さんってプライベートではなかなか利用しづらくなっちゃうでしょ。接待された側と接待した側がバッティングしちゃったら、ちょっと気まずい。そう考えたら、プライベートでは遠のいてしまう。そもそもそういうお店としてやっているわけじゃないし、もっと気軽に、親しみやすい感覚だからね。」

そうは言いつつも、定評ある料理と店の雰囲気から、実際には接待の場として利用するお客さんも少なくない。

「接待の場としてご利用いただく場合は、同業の方がお客さんの中にいないか、会話がスムーズに進んでいるかなど、できる限り気を配ってます。」

お客さんが店を使用する目的や立場、シチュエーションにまで行き届く橋本さんの心遣い。
席数約20席。店舗面積に対し、若干少ないように感じるこの席数も、橋本さん自らの目が一人一人のお客さんへ十二分に行き届く、ちょうどよさなのかもしれない。

どんな人でも楽しめる

ビール・ワイン・焼酎・カクテル・ノンアルコールドリンク。

一般的なものから、「おもしろ半分」という橋本さんの興味から置かれているお酒まで、豊富なドリンクメニューには心踊らされる。

「お酒って、飲める人もいれば飲めない人もいる。更に、飲める人でもいろいろと飲み物の好みも違うでしょ。だから、いろんな種類の飲み物があれば、どんな人と来ても楽しんでもらえる。例えお酒の飲めない人が仲間にいても、食事が充実してれば誘いやすいでしょ。」

料理・ドリンク・サービス、どんなことに対しても橋本さんの理屈がある。だが、そのひとつひとつが強く主張されることはなく、バランスよく浮遊する空間に、橋本さんのセンスを感じる。

もてなしの心のルーツ

これまでに手厚く心遣いがされている居酒屋。

帰るとき「よい酒が飲めた」と感じる心地よさは、「もてなされている」という堅苦しさのない、あくまでも自然体な橋本さんのキャラクターあってのもの。

そんな橋本さんの「もてなしの心」のルーツは、5年間修業した「日本料理 あべ野竹亭」にある。

料理人に焦がれた橋本さんは、高校卒業後国立清水海上技術短期大学校へ入学する。

「本当は、卒業してすぐ料理人として働こうと思ったんだけどね。親の反対などいろいろとあり、清水の海員学校、船の学校に1年通いました。」

料理人を目指して船の学校?ここでもまた、橋本さんのユニークな経歴に興味をそそられる。

「要は、調理師免許をとるだけのために行ったところがある。基本は船の学校なんだけど、船の中で働く料理人さんとかいるでしょ。そういう人たちを育てる科があって。しかも運輸省(現在国土交通省)の運営する国立だから、授業料も安いし、普通調理師学校へ行くと2年かかるんだけど、1年だっていうしね。」

「夢は料理人。目的は調理師免許をとること。」
型にはまらず、形式にとらわれない。自らの考えに直結したスマートな行動は分かりやすく純粋で男らしい。

在学中、「日本料理をやりたい」と言い続けた橋本さんに、教官が紹介してくれたのが静岡にある一流料亭「日本料理 あべ野竹亭」であった。

あべ野竹亭 5年間の修業

高級料亭として、その味とサービスの質は料理人の間でも名高い
「日本料理 あべ野竹亭」。

「店へ行ってみると、TVに出てくるような凄い庭、門までずっと続くつつじ階段があってね。『おぉ。すげぇ〜』と、圧倒されました。」

「初めの1年は一切調理場には入れません。まずは下積み、変な話庭掃除から始まりました。下積みの中でも大変だったのは『お皿探し』ですね。」

月々の献立が出ると、「おやっさん」とよばれる総責任者がその料理に合った皿を選ぶのだという。

「皿のアルバムがあるのよっ。月々の献立が出ると、それをおやっさんのところに持って行くんだよね。それで、『これ持ってこい』のおやっさんの一言で、お皿の保管庫へ走っていって、もの凄くいっぱいあるお皿からぱっと一発でお皿を探し出さなくてはいけないわけです。」

「更に、厄介なことにそのお皿は一枚一枚箱に入ってる。もう探すというより、場所を記憶するぐらいじゃなければだめでしたね。すぐに持ってこられなかったり、間違えたりすれば、『バカヤロ!』ってげんこつですから。」

はじめての料理

下積みの1年が過ぎ、初めて任された調理場。

そして、料理人として初めてお客さんに提供した料理は「ご飯と漬け物」。

炊きたてのご飯を食べてもらうため、お客さんの食事のスピードを常に確認。提供のタイミングを見計らって炊き始め、盛り付けには必ず親方のチェックが入った。

「まずは、『こうやってやるんだ』と先輩に教えてもらう。先輩に教えられた通りに盛り付け、それを親方に出すと『なんだこれは!!』って怒られるわけですよ。」

「最初は『○○さんにこうやれって言われた』って、グチグチ言ってたんだけど、そのうちだんだん考え方が変わってきたんです。『あぁ。教えてもらったやり方はやり方であるし、親方が言うやり方はやり方である。それはやっぱり個人差やセンスの差があるのだから、人が見た感覚も違う。』と・・・。」

「同じ料理を、別の料理人が出しても、こっちがいい、あっちがいいって、人によってある。その中で、自分自身が『あっ、これがいいな。』って思えるものを選んでとっておけばいい。そうやって切り替えたんです。自分の頭にいれておくだけだけから。それだけ。」

高級料亭といわれる「あべ野竹亭」にて全ての持ち場を一巡し、基礎知識と技術を学ぶと共に、自身の感性と精神力は鋭く磨かれていった。
5年間の修業を終え、地元韮山に戻り、和風レストラン・居酒屋・バー・イタリアンなど様々な店舗を経験。
2003年11月、夢であった自分の店。「シンズダイニング」をオープンさせた。

「ある居酒屋で料理長として働いていたとき、同級生がよく来てくれた。やっぱ楽しそうに飲むじゃない。会社の愚痴を言いたい人もいれば、悩み事を相談したい人もいる。そういう気取らない場所が欲しくて。」

そんな思いのもと、懐石料理でも、定食屋でもなく『和風居酒屋』という形態を選んだのだ。

料理へのこだわり

「嘘はつかない」

橋本さんの料理へのこだわりは、この言葉に尽きる。

「ほとんど利益はないです。」
そう語るのは、シンズダイニングの人気メニューの一つ「あしたか牛ステーキ」。

この「あしたか牛ステーキ」に使われるあしたか牛は、完全生粋の黒毛和牛、しかも最高ランクのものだけを取り扱う、地元沼津でも信用の高い肉屋から仕入れている。

 

「高いお金を出せば、いいものが食べられるのは当然のこと。あくまでもここは居酒屋。いいものを、リーズナブルにいい価格で食べてもらいたい。」
という橋本さんの想いが、この本物「あしたか牛ステーキ」を、1,250円という破格で提供させている。これでは確かに利益はないはずである。

更に驚いたのは、
食材は、その日に使う分だけ、毎日市場に出かけるということ。
そして、料理はオーダーをもらってから、調理を始めるということ。つまり、基本的に仕込みや作り置きはしていないということである。

「味が変わる。食感が変わる。」
ズルをすることで、変わる料理の質。これは橋本さんにとって、絶対に許せないことなのだ。

安いからそれなりではなく、橋本さんの料理には、値段以上のサプライズがある。それは、料理に特別な手を加えるということではない。
面倒なこと・大変なことでも、旨さに妥協せず手間暇をかけるという、料理人としての心持ちである。

「嬉しいのは、そうやってちゃんとやってきたおかげで、高い年齢層の方にも慕われるお店になったことですね。」

味の善し悪しを知る客層の定着。これは橋本さんが、お金のためでなく純粋に料理人として培った「もてなしの心」につき動かされ、それを追求してきた結果に他ならない。

最後に・・・。今、ワクワク・ドキドキしていますか?

「昔からの『料理人になろう』という夢が叶った。でも、僕にとってこれがゴールじゃない。『もう夢が叶ったわけだから、俺。好きなことしてていいじゃん!』とはならないよね。」

「これから・・・。野望はある!!最終的には人を雇ってやっていける商売をしたい。みんなやっていることだけど、難しいと思う。僕も経営者になって初めて経営者にしかわからないことがあるなぁ。と実感します。」

「今一番やりたいこと。それは『焼肉屋』。だって、せっかくいい肉を仕入れているから。リーズナブルな価格でちゃんとしたものをちゃんと出したい。しかも、接待にも使ってもらえるように、個室も作りたいですね。」

取材日:2008年8月 (記事:中村)

橋本伸さんのプロフィール

1974年(昭和49年)4月生まれ。現在34歳。 妻と子供2人、ご両親の6人暮らし。高校卒業後、国立清水海上技術短期大学校にて調理師の免許を取得。学校教官の紹介で、静岡県静岡市「日本料理 あべ野竹亭」にて5年間修業を積む。後、地元韮山に戻り、数々の料理店やバーにて日本料理以外の多種多様な料理経験を重ね、2003年11月。念願の独立、自分の店を沼津市大手町に開く。

インタビューコメント 〜橋本さんとお会いして〜 eひと編集長 中村

ちょうどよい、良い加減。
橋本さんとお話ししていると、そんな心地よいバランスを感じました。
何度かお店を利用させていただいたことがあります。あのときに感じた「あぁ、また近いうちに、今度はあの人と来たいなぁ。」と思わせる理由が、橋本さんにお会いして、ジワジワと伝わってきた気がしております。

女性にとって、「私はこんなに素敵な店を知っている。」というのは、一種のステイタスでもあるかと思います。女性が集まると、「どっかいい店ない?」そんな会話もしばしば。

家族を、恋人を、友達を、そんな大切な誰かを連れて行きたい。そう思わせる吸引力が、このシンズダイニングさん、そして橋本さんにあります。

市場への仕入れに出かけるお忙しい時間帯にも関わらず、朝からインタビューの時間をお作りいただき、ありがとうございました。

インタビューコメント 〜橋本さんとお会いして〜 eひとスタッフ 中野

最近は、大手有名企業の不祥事が度々メディアに取り上げられ、世の中は食に対する不信感を抱いていますが、 橋本さんに言わせれば言語道断。
「嘘はつかない」そんなポリシーを持つ橋本さんのお店は、まさに安心そのものです。

橋本さん自身が市場へ出向き、新鮮な素材を厳選して購入する。それも毎日。
そして決して作り置きはしない。
高級日本料理店で修業を積み、さらに毎日厳選した素材で作る料理。
それが美味しくないわけがない。
それなのに価格はリーズナブル。

どうして?
それはお金儲けのために料理人になったわけではなく、お客さまの満足が橋本さんの幸せだからです。

ありがとうございました。

シンズダイニング 店舗情報

所在地 〒410-0801 静岡県沼津市大手町2-3-1 ワイズビル2階
電話番号・FAX番号 055-951-8222
営業時間 17:30〜24:00
オーダーストップ 【お食事】 23:00 【ドリンク】 23:30
定休日 日曜日、祝日
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